HDビデオラインセレクタ「アナログ回路ブロックについて」・・・ (Page 1 / 1)

 アナログ回路ブロックについて


■ アナログ回路ブロックの説明・・・


ロジック回路ブロックに続いて、アナログ回路の各ブロックも説明しておこう。

▼ クランプ回路 ▼

クランプ回路は、映像信号の基準 DCレベルを固定するための目的で使われており、少々乱暴な言葉で説明するなら H-SYNCが過ぎ去ったあとの平坦な部分がきちんと 0V になるよう、無理矢理 押さえつける ための回路とも言える。
AC結合された信号 は、明るい映像か暗い映像かで 平均レベルが変化する ため、本来 0Vであるべき部分も含めて信号全体が内容によってフラフラ動いてしまう。 本来 0Vであるべき部分を 0Vに固定しておけば、そこを基準に信号の他の部分もきちんとリファレンス通りに保たれるはずである。 もっとも 一時的に押さえつけただけではすぐ元に戻ってしまうので、電位を持続させるために AC結合用のコンデンサを活用して電荷を溜めてやり、1水平ライン毎にリフレッシュ して持続の手助けを行ってやる。

▼ データセレクタ ▼

ここで言うデータセレクタの仕事としては、クランプ回路で DCレベルを固定した映像信号 に対し、こんどは オンスクリーンディスプレイ用の信号系統を、マイコンからの指令で切り替え してやることである。
両者は 0V基準に +方向にも -方向にも振れるので、セレクタは ±2電源で使えるものが必要だ。
今回は、定番セレクタの中から、東芝の TC74HC4053AP (通常のスイッチに例えるなら 3回路2接点)を使用した。 このICは 何社からか発売されているが、メーカーによって加えることのできる電源電圧に差があり、±5V(VCC〜VEE間が10V)に耐えることができないメーカーもあるので 注意が必要だ。 別メーカー品を使いたい場合は、事前に必ずご自身でデータシートを確認しておくこと。

▼ ビデオアンプ ▼

1080/59.94iのハイビジョン映像信号は、サンプリングクロックが 70MHzにも及ぶので、建前上 Av=2で帯域幅 35MHz以上 かつ 150Ω負荷を十分な振幅でドライブ できるアンプが必要だ。 高速 OP-AMP一発で済まそうとしても、 あまり選択肢としては広くないのが現状である。
今回は、大阪日本橋のショップで購入できるものをということで、ナショセミ LMH6702を第一候補として使ってみた。 帯域幅 という観点で見ると十分、いや少々オーバースペック気味だが、使ってみて判明した点も含めて、要注意なところもある。 2〜3挙げておくと・・・
  • 広帯域ゆえ、発振しやすい・・・
    電源、GNDの引き回しと、デカップリングには気を付けよう。

  • フィードバック回路の抵抗値に“指定”がある。
    234Ωだって・・・ まぁ、なるべく近い値にしておこう。

  • 入力バイアス電流が多い。
    Maxで ±10uAを超えることもありそうだ。 補正が必要になるだろうなぁ・・・
最後の入力バイアス電流については、試作して判明したのだが、やはり補正が必要だ。
おそらく入力段は PNPとNPNのアンプ 2組を対称配置した回路になっていると思われ、それぞれのバイアスがバランスして 打ち消されることを期待した造りになっているはずだ。 実際には PNPとNPNで hFEが合っていないとバイアス電流の打ち消しが成立せず、 打ち消し損ねた分が流出するという具合なのだろうが、これだけの電流が±両方向にバラつくと面倒だ。
結局のところ、クランプ回路も含めて少し設計変更したところがあるので、また後ほど・・・

▼ 電源回路 ▼

ロジック回路だけなら +5V電源を用意するのみで完了なのだが、今回は、クランプ回路とデータセレクタ、それに ビデオアンプで -5V電源を使用する。 -5Vはそんなに大電流を消費する訳ではないのだが、一応高速 OP-AMPなので、それなり の電源は必要だ。 できれば余裕をみて 100mA位は用意してやろう。 +5V単一動作という選択も不可能ではないにしろ、全体の回路構成から 考えると ±2電源の構成にした方がシンプルにまとめられるという現実もある。
とりあえず、テストでは 5VのACアダプタを2つ並べて使うようにしておき、折りをみて正式な回路を考えることにする。
電源投入シーケンスを気にする方は、二股コンセントに ACアダプタ2つ (同一品を使ってネ) を刺しっぱなしにしておき、二股の根本を抜き差ししてやろう。 こんな方法をマジメな顔して書くと笑われそうだなぁ (^^;

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■ アナログ回路に付きものの“設計変更”・・・


一応ハードとソフトがそこそこ動作するようになってくると、色々と不具合も浮かんでくる。
ディジタル関係の修正はソフトの方で対応してしまう場合もあって実際に回路を直すことは少ないのだが、 アナログ回路の場合、基本的にはハードを直すしか道はない。

あまり多くを記してもくどくなるが、とりあえず クランプ回路アンプの入力バイアス回路 修正ネタを記させていただくので、参考までに 見ていただければ幸いだ。

▲ 未対策波形1[拡大波形]
▲ 未対策波形2[拡大波形]
▲ 未対策波形3[拡大波形]


以上 3つの波形は、エイヤ・・・ っと作り上げたそのままで、V-SYNC付近を表示させたものだ。
入力ソースはハイビジョンハンディカム HDR-HC3。 スルーの Y信号出力を 75Ω終端してオシロにぶち込んでいる。
左上は、垂直ブランキング期間全体の波形を表示させたものだが、画面左側から中央にかけて V-SYNCの 右に行くに従って山は上昇している。 波形の下側に信号が偏っているのが効いてきているのだが、V-SYNCが 終わると徐々に元に戻って行く様子が伺える。
右側2つはこの波形を拡大させたもので、V-SYNC直後としばらく時間経過後のものを並べている。 これらの拡大波形を 注意深く観察してみると、まじめに考えるべきネタであることに気付く・・・ となる訳だ (^^;

当初考えていた結合容量は 0.1uFで、アンプの入力インピーダンスが十分高ければ妥当な線だと思う。 が実際には、 V-SYNC期間であれだけ波形が上に持ち上がっていることを考えると、もっと容量を増やさないといけない ようだ。 あと、クランプパルスが入っている場所(H-SYNC直後)を見ると、パルスのある場所だけ0V になっており、パルスが解除されたとたんに持ち上がっているような感じになっている。 V-SYNC直後に 持ち上がっているのは結合容量不足だとして、V-SYNCから離れた場所でも持ち上がっているのは困ったもんだ。 他に 電流を流し込んでいるパーツがないことからして、おそらく LMH6702の入力バイアス電流の仕業だろう。
波形が上に持ち上がっているのだから、「強制的に下げれば良いだろう」ということで、試しに LMH6702の +入力と -5Vとの間に 390KΩの抵抗を接続して電流を吸い出してやると・・・ 予感的中! のようだ。
先ほども記したように、実際にはこのバイアス電流は +側にも -側にもバラ付くことがデータシートから読み取れるので、この方法でキャンセル できるとは限らない。 全てに対応できるように考えるなら、±電源間に VRを入れて微調整・・・ なのだが、 さすがにイマイチなのでもっと簡単に解決したいところだ。
あと、結合容量だけを増やせばこの波形の持ち上がりも改善されるか確認してみたのだが、残念ながらあまり変化はなかった。 感覚的には 踏ん張りが効きそう な感じがするのだが・・・

▲ 対策済波形1[拡大波形]
▲ 対策済波形2[拡大波形]
▲ 対策済波形3[拡大波形]


ということで、結合容量を 2.2uFに増量。 かつ LMH6702の +入力と (-5Vではなく) GNDの間に 22KΩを挿入、しかしそれではアンプの入力インピーダンスも下がりすぎるため、結局 +入力と -入力間に 22KΩを渡して対策してある。 まぁ、こんな感じで実用上は問題ないだろう。
尚、2.2uFにセラミックコンデンサを使う場合、必ず B特性 と呼ばれるものを使って欲しい。 大容量のセラコンで 広く使われている 高誘電率系 と呼ばれている素材を使ったものは、両端に加わる電圧によって 容量が大幅に変化する ため、アナログ信号の結合用に使うと 信号の歪みを生じるので注意が必要だ。 そのため、どうしても使用したい場合、変化率の比較的小さな B特性 のコンデンサを使う必要がある。 この位の容量になると、チップコンの耐圧が低いものしか選択肢がなさそうだが、 誤差が ±10%とか、20%のものを選択するとほぼ間違いなく B特性だ。 +80、-20%など、精度も良くないものは、 電源のパスコンにしか使えないと考えておこう。 入手できない場合、無極性の電解コンに 0.01uF程度のセラコンをパラって 使って欲しい。
余談ついでに付け加えておくが、Hi-Fiオーディオの信号系路には B特性であろうが一切高誘電率系のセラコンは使うべきではない。

▲ 高速OP-AMP LMH6702MA[拡大写真]
▲ 2.2uF B特性のセラコン[拡大写真]

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■ とりあえず一通り網羅できたはずだが・・・


ということで、試作した基板のイメージをどうぞ (^^)

▲ ビデオアンプ基板オモテ[拡大写真]
▲ メイン基板オモテ[拡大写真]

▲ メイン基板ウラ[拡大写真]
▲ ビデオアンプ基板ウラ[拡大写真]

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■ 資料はこちら・・・



2007/10/28 Yutaka Kyotani
2007/11/04 Yutaka Kyotani (一部修正・追記)

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