PrPbY→RGB トランスコーダーを使ってみる (2 / ?)

■ RGBビデオアンプの動作を改良する (Part-1:結果編) ・・・


それでは、早速 RGBビデオアンプの改良検討を行っていきたいと思う。
ちょっと冗長になるが、後ろの方には考察なども含めて記しておくので、(興味のある方は)併せてお読みいただければ幸いだ。

トランスコーダーのメインデバイスである LMH1251は、直接 75Ω負荷をドライブする能力がないため、モニタに接続するためには 75Ωドライバの機能を持った 6dBアンプが必要 になる。 この手のアンプは近年需要が高いためか 各社から数多くの品種が発売 されており、扱う信号の内容を限定すれば、選択の幅も広くなる。
このトランスコーダーの RGBアンプには ROHMの BA7660FSが使われていることは先ほども記したが、ナショセミ純正の推奨品 としては LMH6734 というデバイスが指定されており、実体は 帯域幅ン百MHz にもおよぶ 広帯域ビデオアンプだ。 広帯域ビデオアンプは一般的に コストもそれなりに高い ため、代用品として別のビデオアンプを起用するという 行為そのものは理にかなっていると言える。 もちろん性能がきちんと評価されていることが前提だが・・・

ということで、改良結果を先にお見せした後、改良内容について説明を記して行きたいと思う。
結果だけ得られればそれで良い・・・ という方も中にはいるだろうから、興味のない方は後ろの方を適宜読み飛ばしていただくと言うことで (^^;

最初は、RGBビデオアンプ部分の回路図に、改良内容を追記したもの から。




改良した箇所を さらっ と書くと、
  • 入力部分にバイアス用抵抗を追加
  • 省略されていたSAG補正回路を復活
  • 電源端子のバイパスコンデンサを増量
・・・位かな。 


▲ 自然画表示 〜改良前〜[拡大写真]
▲ 自然画表示 〜改良後〜[拡大写真]


ハイビジョンハンディカムで撮影した画像を、改良前と改良後のトランスコーダーを使ってそれぞれ映してみたところ。
左上の画像では、画像が全体的に暗く、特に暗い部分のリニアリティが損なわれているため、後ろにある大きな樹や 機関車先頭の排障器などが沈んで映っている。 また、この画像には出ていないが、コントラスト変化の激しい画像を映すと、 前頁のカラーバーで発生していたような もやもやと色の付いたノイズが載る ことがある。

右上の画像は改良済みトランスコーダーのもの。 暗い部分の沈みはキレイに解消され、自然な感じの画像にまとまっている。
撮影に使用したデジカメのカラーフィルタが画素と干渉し、色の付いた模様の出ているところがあるが、実際の画面にはこんな模様は出ておらず、 映り具合はなかなかのモノである。



▲ 10Step 〜改良後〜
 (BA7660FS G入力、 G出力)
[拡大波形]

▲ RAMP波形 〜改良後〜
 (BA7660FS G入力、 G出力)
[拡大波形]


続いて入力回路部分に対するバイアス用抵抗の追加で、リニアリティが戻っているか確認してみた。
波形は何れも信号発生器から、10StepとRAMP波形。 BA7660FSの入力、出力端子に直接プローブを接続した状態だ。

結果は上々。 レベルが下がりきった状況でのノイズもなくなっている様子が読み取れる。


▲ マルチバースト (1080/59.94i)
 (上: BA7660FS G入力、下: G出力端子)
[拡大波形]
▲ マルチバースト (1080/59.94p)
 (上: BA7660FS G入力、下: G出力端子)
[拡大波形]


この項目の最後は、周波数特性確認。 信号発生器からマルチバーストを食わせてみた。
左上は、改良結果確認のメインとして D3(1080/59.94i)設定時の波形。 右上は、モノは試しと D5(1080/59.94p)に設定してみた際の波形だ。 何れも 安物のUSBオシロでは波形がきちんと表示されない ため、アナログオシロに登場してもらった。

どうやらこの BA7660FSというIC、シンク側から帯域のリミットが来ているように見えるが、とりあえず D3に関しては、 細かいことを言わなければ 特に問題はなさそうだ。
D5では オシロ自体の周波数特性にも余裕がない ため参考程度に見て欲しいのだが、かなり役不足 な状態に見える。 ※信号レベルが下がりきったところに歪みが発生しているようなので、これは別途調査することにする・・・。


▲ テストチャート (1080/59.94i)[拡大写真]
▲ テストチャート拡大 (1080/59.94i)[拡大写真]


テストチャートを表示させてみた感触も、とりあえずは合格ラインかと思う。
※画面上下方向に明るさのムラが出ているように見えるが、これはデジカメのシャッタースピードと絞りの限界によるもので、実際の画面では問題ない。

・  ・  ・  ・

■ RGBビデオアンプの動作を改良する (Part-1:考察編) ・・・


改良結果を先にご覧いただいたところで話を戻そう。
ここから先は カタい話になりがち のため、興味のない方は 適宜読み飛ばし をして欲しい。
このトランスコーダーで使われている BA7660FSのデータシートを見ると、特長として・・・
  • 低消費電力動作
  • 出力ミュート回路内蔵
  • パワーセーブ回路内蔵
  • 出力保護回路内蔵
  • サグ補正回路内蔵で出力カップリングコンデンサを小容量にできる
  • 負荷を各々2回路駆動可能
  • Y/C MIX回路内蔵 (BA7665AFS)
  • シンクチップ入力 (BA7666FS)
  • D/Aコンバータ出力と直結可能 (BA7660FS)
などと書かれている。
先頭 1〜4は実際のところどうでも良く、7〜8はこのチップのことではないので除外する。 ということで重要なのは、最後の項目 9. D/Aコンバータ出力と直結可能 と、中ほど 5. サグ補正回路内蔵で出力カップリングコンデンサを小容量にできる あたりだろうか。

先ほど記した RGBビデオアンプ部分の回路図を、再度ご覧いただきたい・・・



▼ アンプのバイアスに関する考察・・・
トランスコーダーチップ LMH1251の出力は、100uFのコンデンサと10KΩの抵抗でカップリングされて、BA7660FSの入力端子へと供給されている。 ごくごくノーマルな AC結合が使われており、この 100uFと 10KΩという値も LMH1251の応用例と同じ 値のようで、無難な選択と言える。
ここからが本題なのだが、回路図右下の枠囲み部分に 入力部分の等価回路 を添えておいたので、ちょっと見て欲しい。 単電源の OP-AMPなどでよく使われる回路で、 入力が 0V付近の電圧でも正しく動作する。 しかし、マイナスに振れると PNPトランジスタの VB<VCとなり、特性が落ちるなどの弊害が発生し、さらにマイナスに振れると、 0.6V付近で保護用ダイオードによるクリップ発生・・・ となる。
また、出力端子電圧の計算式を見ると、0.9+2×input voltage となっており、負の入力は 出力段の飽和電圧 によっても制限される。
要は、D/Aコンバータ出力と直結可能 というのは、0Vから+の向きに振れる信号に直結可能 と読み替えた方が判りやすいようだ。 結論としては、AC結合にしたいなら適当なバイアスをかけて使え ということで (^^;

一般的な OP-AMPにバイアスをかけて使う場合、1/2 Vccを基準レベル として扱うことが多い。 ±両電源のアンプを単一電源で動かすために よく使う手法だが、このアンプでは入力電圧レンジが 0〜1.3(min) 1.5(typ) という書き方がされており、1/2 Vccにはできない。
それなら、LMH1251が出力する 0.7Vppの信号が両方向どちらに振れても大丈夫なように 0.7Vのバイアスを与える のが望ましいと いうことになる。 ※もちろん、これも+方向に振れた信号がクリップしないことを確認しておかなければならないが。
結局のところ、入力電圧レンジ 0.7Vpp×2(6dB)×2(AC結合の揺らぎ)=2.8Vpp がクリップせず出力できるアンプが望ましいとなるのだが・・・ ちょっと苦しいみたい (^^; クランプ入力付き ビデオアンプが幅を効かせている理由がわかってきたような気がする。

色々と書き連ねてみたが、ここでは LMH1251が出力する DC成分を活用させてもらい、少し控えめなバイアスで間に合うようアレンジしてみた。 LMH1251との カップリングコンデンサ 100uFに、それぞれ 27KΩの抵抗をパラにしてバイアスをかけることにしたのだが、PSPICEによるシミュレーションで +方向、−方向にパルス成分が加わっても大丈夫っぽいことを確認しておいたので、当面はこの回路で行くことにする。



▲ 黒地Cross 〜改良後〜
 (BA7660FS G入力、 G出力)
[拡大波形]

▲ 白地Cross 〜改良後〜
 (BA7660FS G入力、 G出力)
[拡大波形]


実機による検証結果はご覧の通り。
信号発生器から、黒地に白と、白地に黒のクロスパターンを発生させ、それぞれ入出力の状況が問題ないことを確認しておいた。

▼ SAG補正回路に関する考察・・・
RGBビデオアンプネタをもうひとつ記しておこう。
BA7660FSには、SAG補正端子が設けられており、うまく活用すると 出力のDCカット用コンデンサを小容量にできる という メリットがある。 本来、低周波成分を多く含む映像信号のカップリングコンデンサとしては、信号を歪みなく通過させるため 470〜1000uFの容量が必要 だ。 SAG補正端子は、負帰還ループの中にこのカップリングコンデンサを入れてしまうことで、小容量のコンデンサでも歪みの発生がなくなるよう、 補正をかけてくれるというものだ。 補正が不要な場合、この SAG補正端子と出力端子をまとめて 470uF〜の大容量コンデンサで出力。 補正を行う場合、100uF程度の小容量出力コンデンサのほかに、 もう一つ 22uF程度の帰還コンデンサをアンプごとに追加してやれば良い。
実は、この回路では それらがバッサリ省略されている という事実がある。 出力コンデンサの容量を 100uFと小さくし、しかも SAG補正端子はOPENのままだ・・・
この環境で発生しそうな内容を列挙しておくと、
  • 低域周波数特性が悪くなるので、信号の歪みが増える。
  • 負帰還ループの設定が想定外の値になり、ゲインが 6dBよりも大きくなる。
ここは、せっかくプリントパターンも用意されていることなので、SAG補正用コンデンサを取り付けておくのが最良の方法だろう。

▼ 電源のバイパスコンデンサ増量に関する考察・・・
測定中、テストパターンの縁に 虹色の影 が見えることがあり、波形を確認するとリンギングが発生していた。 色々追いかけているうち、 電源のバイパスコンデンサ増量で このリンギングが軽減 できることに気付いた次第だ。

電源回路のインピーダンスは 0Ωであることが望ましいが、実際には 0Ωではない。 また配線の抵抗分やインダクタンス分の影響もあるため、一般的には デバイスの電源ピンすぐそば には 小容量かつ周波数特性の優れたコンデンサ を、そして距離は多少離れても良いので 大容量のコンデンサ を抱かせておくという方法をとる。
実際の基板上では、BA7660FS電源ピンのそばに C8(容量不明セラコン)、三端子レギュレータの出力には E1(220uF電解) が実装されており、一見問題ないように見える。 が、BA7660FSは 75Ωドライバが 3つも入っている 一種のパワーIC なので、とてもセラコン1つだけでは電圧変動を抑え切れないはずだ。 入力部分の LMH1251に電源を供給しているパターンも 途中から分岐しており、共通インピーダンスにより電源変動が戻っている ことが考えられる。

やはり、安定動作のためには 変動は発生元で完結させる のが最も望ましいので、C8に 直接電解コンデンサを抱かせて、外部に電圧変動の影響が及ばないようにする。



▲ C8のみ
 (BA7660FS R入力、 R出力)
[拡大波形]

▲ C8//10uFパラ
 (BA7660FS R入力、 R出力)
[拡大波形]


リンギング自体は RGB全ての出力で観測できるのだが、症状がいちばん顕著なのが R系統だった。 出力端子→GND間に何故か 75Ωの抵抗が渡してあり、負荷が重くなっているためかも知れない。
とりあえず、C8に 10uF電解をパラっただけでも、リンギングは軽減されている。



▲ C8//22uFパラ
 (BA7660FS R入力、 R出力)
[拡大波形]

▲ C8//220uFパラ
 (BA7660FS R入力、 R出力)
[拡大波形]


容量を増やして行くに従い、リンギングも軽減される様子が読み取れる。
BA7660FSのデータシートでは 47uFが指定されているようだが、ここは安定動作のため 220uF電解を奢っておきたいと思う。

・  ・  ・  ・

■ 最小限の改良としてはこれで完了・・・だが、


本当は、もう少し手を入れたい場所はあるのだが、最初のステップとして D3映像を映す というのはクリアできたのではないかと思う。
ということで、もう少し手を入れたい場所 については、次回以降に追記を行うつもりで考えている。

2008/11/30 Yutaka Kyotani (暫定公開)

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